戦闘機パイロットを生還させるには? (統計学から「生存者バイアス」を考える)
こんにちは。河野です。
皆さん、生存者バイアス、という言葉をご存じでしょうか。
第二次世界大戦中、
連合軍はどうすれば戦闘機を撃墜されずに済むか
ということに頭を悩ませていました。
基地に帰還した戦闘機を見てみると、
敵の攻撃によって機体はあちらこちらに被弾して穴があいていました。
そこで軍は、エイブラハム・ウォールドという統計学者にアドバイスを求めました。
彼はさっそく生還した戦闘機の弾痕をすべて記録し、
機体のどこが被弾しているかを図にまとめました(下の図)。
(出典:https://techfactory.itmedia.co.jp/tf/articles/1812/07/news004.html)
さあ、皆さんはウォールドです。
撃墜を防ぐためにどのような対策を提案しますか?
この図を見た軍の関係者は、ウォールドに相談しました。
「なるほどそうか! 一目瞭然ですね。
この被弾が多い箇所を集中的に補強しましょう!」
「いいえ、違うのです。補強が必要なのは、
ほとんど被弾していない操縦席の周辺と尾翼の周辺ですよ。」
「え、どういうことですか?」
「生還した戦闘機は、操縦席周辺と尾翼周辺の被弾が少ないですね。
では、墜落した戦闘機はどうでしょう?
コクピットと尾翼に被弾したから帰還できなかったのだと考えられます。
ですから、コクピット周辺と尾翼周辺を補強すべきなのです。」
いかがでしょうか?
私も軍関係者と同じ見方をしてしまいました。
もちろん、墜落した戦闘機を調べたわけではないので、
この対策は「仮説」であることには留意する必要があります。
この事例から学べる教訓は二つあると思います。
・統計学的側面
データに偏りがないように、公平にサンプルを集めて分析すること(選択的バイアスの回避)
・論理思考的側面
批判的視点(クリティカルシンキング)を大切にし、成功と失敗の両面から学ぶこと
統計分析やビッグデータ解析では、
基本的に「集めたデータ」「存在するデータ」を扱います。
しかし、どんなに精緻に分析し対策を立てても、
効果が上がらないこともあるでしょう。
このような場合は、
「ひょっとすると、生存者バイアスに陥っているかもしれない」と、
元のデータを疑うことも大切です。
そう、統計分析はツールです。
分析することが目的ではありません。
このコラムを読んでいらっしゃる皆様のほとんどは
何らかのビジネスに携わっていらっしゃると思います。
ツールをどのように使うかが、使い手の「腕」にかかっているのです。
ところで・・
この戦闘機の被弾ストーリー自体がフェイクだという説もあります。
なぜか。
被弾した飛行機の図は、DC30、
つまり主に旅客機や輸送機として使用されていた機体だからです。
おあとがよろしいようで。
クリティカルクリティカル・・・
- 2023/11/29
- コンサルティング
- 投稿者:講師 河野 貴史