紙テキストがおすすめな理由~テクノロジーと脳科学の視点から~
近年のテクノロジーの進化により、私たちは遠方の方々と
デジタルツールを活用して、対面でなくても気軽に顔を見ながら
コミュニケーションをとることができるようになりました。
研修の現場でもテクノロジーが多く採用され、ZoomやTeamsを使用した
オンライン研修や、テキストのデジタル化とタブレットによる
閲覧・書き込みも増えています。
一方で、ペーパーレスやSDGsの時代においても、手書きのテキストが
なくなることはなさそうです。というのも、人材開発担当者や受講者は、
直感的に紙に印刷されたテキストの方が「頭に入りやすい」「理解しやすい」
「集中しやすい」と感じているからです。
実はこの感覚は科学的にも証明されています。
アメリカのミュラーとオッペンハイマーによる2014年の研究によれば、
「講演のビデオを見ながら手書きでメモを取るグループと、
パソコンを使用するグループを比較した結果、
前者の方が概念的な質問に対して成績が高かった」と結論されました。
ここでいう「概念的な質問」というのは、単に暗記ということではなく、
「問いかけられ、自ら考えて気づく学習」と表現するとわかりやすいかもしれません。
【論文リンク】: Psychological Science 2014
また、東京大学においても同様の研究がなされ、「紙の手帳」の
脳科学的効用について調査した論文を発表し、使用するメディアによって
記憶力や脳活動に差が出ることを明らかにしました。
———————–東京大学 教養学部の研究———————————-
参加者は18~29歳の48人(東大生および一般公募者)で、
手帳群・タブレット群・スマホ群(各16人)に分けました。
参加者は会話文を読みながら、スケジュールの情報を紙の手帳(4色ペンを使用)、
タブレット(スタイラスペンを使用)、スマホ(フリック入力か仮想キーボードを使用)
のいずれかでカレンダーに書き込み、それから1時間後、スケジュールに関する問題に解答しました。
その解答中の脳活動をMRI装置で測定した結果、タブレット群やスマホ群と比較して、
手帳群の方が記憶の想起に対する脳活動が確かに高くなったのです。
言語に関係する脳の領域や、記憶処理に関係する「海馬」に加えて、
視覚を司る領域でも活動の上昇が観察されました。
これにより、紙を使うことで言語化や視覚的イメージの機能が促進され、
電子機器より一層豊富で深い記憶が得られることが分かります。
【東京大学の研究リンク】: 東京大学公式ページ, PDFリンク
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こうした研究から、現在、研修においては、「紙のテキストの方がより学習効果が高い」
と考えられています。紙のテキストには学習者にとってなじみ深く、より深い理解を
促進する効果もあります。
一方、デジタルにはデジタルの利点があり、「印刷の手間やコストが省ける」
「破棄しなくてもいい」「最近ではペンでタブレット入力ができる」などが挙げられます。
それぞれの利点を理解し、最終的には組織ごとに「何を優先するか?」で
意思決定することが望まれます。
このような背景を踏まえ、私たちはテクノロジーとペーパーを融合させ、
最適な学習環境を構築していく必要があると言えるでしょう。
- 2024/01/15
- 社長コラム
- 投稿者:葛西 伸一